プロセスエコノミー時代のワークライフデザイン

話題のこちらの本を読みました。
プロセスエコノミー – あなたの物語が価値になる –
尾原 和啓 著

尾原さんと言えば、『どこでも誰とでも働ける――12の会社で学んだ“これから”の仕事と転職のルール』という著書もありますが、私も複数社転職した結果、今の自分があると思っているので、尾原さんの“転職哲学”にはとても共感しています。

尾原のサロンハック
という、オンラインサロンも人気のようですね。
私はサロンメンバーではないのですが、今回の著書の巻末にも、本書の出版までのプロセスをオンラインサロンで公開してきたという話がありました。とてもオモシロそうですね。

さて、本書の前提は、
“良いもの”を作るだけではモノが売れない時代の到来
です。

モノが売れない時代の到来に関しては、これまでのブログでも何度も触れてきましたが、そうした「完成形」で差をつけるのが難しい時代においては、プロセス自体を売る「プロセスエコノミー」で稼ぐ…というのが本書の趣旨です。

プロセスに価値を置くというのは、特に新しい手法ではありません。
本書のタイトルにもある、作り手の想いやストーリーに価値をつけていくというのは、これまでも行われていた手法だからです。

違うのは、それがアウトプットと同時に価値づけするのか、アウトプット以前に価値づけするのかという点です。

本書では、アウトプットできないかもしれない…という状態であっても、プロセスに価値づけしていくという新しい視点に触れられている点が、これまでにはないものです。

本書とほぼ同時期に読んだ
パーパス「意義化」する経済とその先 岩嵜 博論・佐々木 康裕 著
の「Z世代が連れてくる未来」ともリンクするのですが、今の30代以下の若い世代は、生まれた時から「ないものがない」時代、「乾けない時代」で育ってきました。

こうした世代には、達成や快楽という欲よりも、精神的な「良好な人間関係」「意味合い」「没頭」という事柄に幸せの価値を感じる傾向があります。
そのため、欲を満たすための消費ではなく、自分が好きかどうか、企業や生産者のビジョンや生き方に共感できるかどうかという視点でものを買いたいと思う傾向があり、アウトプットだけでなくプロセスを共有することへの価値が高まっているのです。

私にも同じような経験があります。

以前、農業に従事している女性に、「毎月、おすすめの野菜が届くサブスクをやってほしい」という話をしたことがありました。彼女は、「農業で定期便をやることは、野菜をお届けできなかった際のリスクが伴う」と躊躇していたのですが、私にはそういう視点がまったくありませんでした。
もしかしたら、天候による不作で野菜が届かないこともある。でもその状況も一緒にシェアし合うのが私がイメージしていたサブスクだったからです。作物が届かなかったからお金を返せという人はいないんじゃないか、そう話したのですが、「あなたのような人ばかりだと嬉しいけど、なかなかそういう訳にはいかないから」と言われ、少し寂しい気持ちになったのでした。

本書を読んで、その時の想いがよみがえってきました。私があの時に抱いた想いは、農家さんと物語を共有したいという消費意欲だったのだと。
皆さんにも、そういう経験があるのではないでしょうか。

プロセスエコノミーとワークライフデザイン

ところで、本書の中に以下のような記述がありました。

もはや「新しい情報を自分だけが見つけた」と過信すること自体がアウトです。情報それ自体に価値はありません。
むしろ手持ちの情報をシェアして仲間を作り、プロセスを惜しみなく開示してしまったほうが、結果的にさらなる情報が集まってきて、自分にとって得なのです。

これは、自分のキャリアや生き方にも通じると私は思います。

よく、「情報解禁」や「機密情報」などを気にする方がいますが、そこを異様に気にする方ほど、その意味が解っていないように感じます。
「ここからここは機密情報に当たるけど、それ以外は問題ない」という判断をきちんとできることで、発想の横展開ができるようになりますし、情報と情報の交換で人脈と仲間を拡げ、自分のプロジェクトへの可能性も拡げていくことができます。

私は、ITベンチャー、広告代理店などの業界にいた経験があるのですが、そういう界隈の人たちは、そうした情報交換に長けています。
まさに、この人が「どんなアウトプットをしたか」だけでなく、「どんな情報を持っていて、どんなプロジェクトに関わっていて、どんな動き方をしているのか」というプロセスで評価され、転職やプロジェクトへの誘いへとつながります。

履歴書や職務経歴書に書ける内容だけが、自分のキャリアではないのです。

以前、YouTubeでもご紹介させていただいた
『「仕事ができる」とはどういうことか?楠木 建 (著), 山口 周 (著)』
という本があります。

この本の中でも、『「やってみないとわからない」センスの事後性』という話があったのですが、ビジネスにおいてとても重要な“センス”は、その人と一度仕事をしてみないとわからないという難しさがあります。

どんなに自信があっても、それを自分で文字化したり、発信したりするのが難しいのがセンス。そういう意味では、自分のキャリアにおいても、“どんな想いを持ってこの仕事(プロジェクト)に取り組んでいるのか”というプロセスを見せていくことで、第三者に自分という商品を理解してもらいやすいと言えるのではないでしょうか。

プロセスエコノミーの弊害

ちなみに、私が本書で一番共感したのが「プロセスエコノミーの弊害」でした。
プロセスエコノミーというキーワードを耳にして、一番懸念に感じた部分がきちんと文字化されていたからです。

自分の意思を持ってプロジェクトを立ち上げ、「手段」としてプロセスを開示し、そこから収益を得ていたはずなのに、いつしか、観客の期待に応えることが目的化してしまうことの弊害です。

そこに陥ってしまうと、「こうすれば稼げる」という視座の低いハウツーに成り下がってしまうので、注意が必要です。

SNSの投稿などでも、「いいね」の数に一喜一憂してしまい、「いいね」をたくさん集められそうな投稿に精を出してしまう方。意外に多いのではないでしょうか。
そういう方がこの「プロセスエコノミー」を取り入れてしまうと、観客に踊らされているただのピエロになってしまいます。

多様な価値観、多様な正義の時代。
もしもすぐに思ったような成果が得られなくても、それはたまたま、今あなたのまわりにあなたと同じ「価値」を感じる人が少ないだけ。
自分が大切にしている「why」を見失わず、継続し続けることが大切です。

そういう意味では、「プロセスで稼ぐ」というよりも、「プロセスで稼げる場合もある」くらいの気持ちで、過度に期待せず、突き進んでいくほうがよいのかもしれないです。
その結果、振り返ってみると、素晴らしい物語と仲間、収益がついてきていた…というのが理想かなと私自身は感じます。

皆さんはどう思いますか。