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ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム
クレイトン M クリステンセン(著)
ハーバード・ビジネススクールの教授だったクレイトン・クリステンセンは、「イノベーションのジレンマ」の著者であります。
※「イノベーションのジレンマ」
大手企業ほど既存顧客を視野に入れた価値観で物事を判断してしまう傾向があり、「小さな機会」を見逃してしまうこと。またその結果、ベンチャーに侵食されてしまうこと。
経験と成功が「違う基準での価値観」を評価することの妨げになってしまうことを指します。
クレイトン・クリステンセンによる「ジョブ理論」。
それは、顧客には必ず「片づけたいジョブ(目的・用事)」がありモノやサービスを利用しているという、顧客のニーズを深掘りしていくときの「考え方」です。
「ジョブ」という表現は、『新しい仕事が発生するたびにそのスキルを持つ人を雇用、その仕事が片付いたら解雇する』というアメリカらしい発想でもありますが、顧客は「ある特定の商品を購入」するのではなく、「進歩するために商品を雇用」する、つまり、その進歩が「ジョブ」なのだとクレイトン・クリステンセンはいいます。
私たち女性にはわかりやすい事例がたくさんあるのではないでしょうか。
洋服が足りないから新しい洋服を買うのではないし、化粧をしなくても生活はできますが、毎日化粧をします。健康診断で指摘された訳ではありませんが、毎日体重を測ったり。。
マーケティングの大御所であるセオドア・レビットが著書『マーケティング 発想法』の中で伝えた、「人は刃の直径が4分の1インチのドリルがほしいのではない。4分の1インチの穴がほしいのだ」というのも同じ理論です。
洋服も化粧もダイエットも、それ自体が必要なのではない、その先にある“なりたい自分になる”という「ジョブ」のために私たちはそれらの商品を「雇用」してますよね?

ちなみに、「ジョブ理論」で有名な事例に「ミルクシェイクのジレンマ」というのがあります。ファーストフードチェーンの企業が「どうすればミルクシェイクがもっと売れるか?」の答えを求めて、その顧客層に向け「価格」「フレーバー」「量」などの質問を浴びせ、そのフィードバックに応えたが全く何も起きなかったという事例です。
そこで、そのファーストフードチェーンの企業がジョブ理論を採用。
「どんなジョブが来店客を店に向かわせ、ミルクシェイクを雇用させたのか」を調査しました。その結果、次のような状況が見えてきたのです。
ますは、ミルクシェイクを買う人たちのあいだに、人口統計学的な共通要素はなく、共通する「片づけたいジョブ」があったこと、それも平日は「退屈な通勤時間を満たしたい」「手の汚れない間食で空腹を満たしたい」というようなジョブで、休日には「子どもを喜ばせることができる優しい父親としての役割を担いたい」という“異なるジョブ”を抱えていたということ。
同じ顧客であっても、通勤者と父親というその時の状況ではまったく違うジョブを片付けようとしていたのです。更には、それぞれのジョブの競合もまったく異なってくるという事実も。顧客は「味」や「価格」を重視している訳ではないことに気づいたファーストフードチェーン企業は、その後、来店客のジョブを満たすために商品を改良することで見事に売上を伸ばすことができたのです。
ここでいう、通勤者と父親という一人の同じ人間であってもその時の状況によってジョブが異なるという考察は、ジョブが「機能的な側面」だけでなく、それを達成することによる「社会的および感情的側面」ももつという点で、非常にわかりやすい事例ですよね。
私自身、旅行などにおいても、こういう側面がありそうだと思ったのですが、友人や恋人、夫婦で旅行に行くときと、ファミリーで旅行に行くときは、例え同じ目的地を選んだとしても、優先したい理由が違ってきますよね。
ジョブ理論が重点を置くのは、“誰が”でも“何を”でもなく“なぜ”であるということ。
ですが、ビッグデータマーケティングと言われる時代でも、同じ顧客も状況により「ジョブ」が変わるということをデータで示すことは困難です。
単に「雇用(購入)」したかしなかったかだけで分析するのではなく、満足しているのか妥協しているのか、「雇用(購入)」しなかった理由はなぜなのかなどもデータではわかりません。
データを用いたマーケティングだけでなく、一人ひとりが直面している状況とそこからの進歩に目を向けて深掘りしていく「ジョブ理論」。そして、過去の正攻法に頼らない価値基準で機会を見つけていくことで成功をつかめる「イノベーションのジレンマ」。
一見難しそうに感じますが、これはもしかしたら、私たちのような女性のほうが敏感に気づける視点かもしれないと私自身は感じています。
女性が何かを起こすときにはたいていの場合、「私と同じ想いをしている人をサポートしたい」というような、自身がジョブの当事者でありなおかつプロダクトやサービスの提供者であることがほとんどです。
それなのに、いざ事業展開をする段階になると、プロダクトやサービスの内容や価格などにこだわり、売ろう売ろう…としてしまう方が多いように思います。経営では予測や数字という女性が苦手とする部分を求められてしまうので、思考がそうなってしまうのは仕方のないことなのですが。。
ただ、初期の頃の想いを忘れずに、顧客のジョブに寄り添うこと、ジョブを基軸にプロダクトやサービスを改良していくことに力を注いでいくと、違った結果が出てくるのではないかと思います。
私は新卒で訪販化粧品会社の営業職として就職したのですが、当時のオーナー社長が新卒1年目の私に語ってくれたことが今でも忘れられません。
「我々は女性が活躍できる社会を構築していくために、女性が経済的に自立していくことをサポートするために、化粧品ビジネスの手法を女性たちに提供している。そのビジョンを果たすために、化粧品よりももっとよいプロダクトが出てきたら、私はいつ化粧品事業を辞めてそちらに乗り換えてもよい」。
そしてそれ私のビジネスにおける“スタンス”として根付いています。

“誰に”“何を”ではなく“なぜ”を追求しよう。
それは、「夢」や「ビジョン」にも通じる部分かもしれません。
本書でも、ベンチャーの組織が大きくなるにつれてそれを見失いがちということが触れられていましたが、私たち女性だからできること、女性ならではの感性や想いを大切に丁寧な戦略作りと事業展開を目指していきたいですね。