
コロナ禍を機に、世の中の価値観が変わりつつある今日。
その中のひとつに、「自然との共生」があるのではないでしょうか。
私たちは新型コロナウイスル感染症の拡大で、どんな文明の技術を駆使しても、人間は自然の脅威に逆らえないということを痛感させられました。
自然と共生していく思想を持つことが大事。
数年前から注目されていた地方創生やSDGsなども吹っ飛んでしまうくらい、コロナはそれらの思想を包含したものをもたらしたといえるでしょう。
そした中で、私自身も「農業」への関心が高くなりました。
農業に目を向けると、無いものへの不便さではなく、有るものへの感謝の念が込み上げてきます。日本の農業、日本の文化の素晴らしさ、いま生きていることへのありがたさなど。
そんな中、こちらの本を読みました。
東大卒、農家の右腕になる。 小さな経営改善ノウハウ100
佐川 友彦(著)
2017年にクラウドファンディングを実施し、阿部梨園が行った小さな経営改善事例を紹介するサイトを立ち上げた佐川友彦氏の著書です。
やりがい原理主義に陥っている間は絶対に見えないもの
本書を読み進めてすぐに冒頭の佐川氏の言葉がとても胸に刺さりました。
不確実性の海に自分の人生を賭けてしまえば、うわべだけの一般論も、突き放すような批評も、他人事のような楽観も、すべて一瞬で視界から消え去ります。そんなものは生き残るためには不要で、何かをつかもうと必死に足掻くのみだからです。
この必死さが、人生も境遇も変えます。
東京大学を出て、うつ病になり、無職になること。
農業に関わることになること。
きっと想定外の出来事の連続だったのだと思います。
偏差値の高い大学を出て、立派な企業で優秀な仲間に囲まれて働くことだけが「成功」や「幸せ」ではないこと、自分のアイデアや工夫、努力で目に見える成果を出していけるやりがいや喜び、本書を読み進めながら、まるで私が原体験しているような感動を味わえた本です。
佐川氏は過去の自分を「やりがい原理主義」と評価。
社会貢献することを是とする教育を受けてきたせいか、社会的な意義とインパクトが見えていないと腰が入らず、…泥臭い仕事や人目につかない仕事、結果に結びつく保証のない仕事は敬遠してきた、と。

サラリーマンだった時には、私にもそんな時代がありました。会社のブランドや看板を自分の力のように勘違いして仕事をしていた時もありました。でも、結婚・出産で仕事を辞め、再就職の面接でことごとく落とされ、消去法で起業した時にはじめて、必死に足掻くしかないことを学びました。
私ははじめから何も持っていなかった、失うものは何もないというのは無敵だとも思いました。プライドを捨てることができました。そして、私の人生の中で、起業してから今に至るまでが一番、人間的に成長できたとも感じています。
そう。真の「やりがい」とは足掻いた先にしかないと知ったのです。
課題の山は、可能性の山。
これは、佐川氏が阿部梨園に出会い気づいた視点。
日本の農業が多くの課題を抱えていて、決して明るい業種ではないことは農業に詳しくない人でも想像できます。
でも一方で、正解がコモディティ化し、課題が希少化してしまった現代においては、「課題が山ほどあること」は可能性のかたまりでもあると言えるのです。
佐川氏が阿部梨園とともに行った「小さな経営改善」の内容は、ぜひ本書を読んでいただきたいのですが、その一つひとつは決して高度なものではなく、私にもあなたにも思いつくようなことがたくさんあると思います。
素晴らしいのはその中身だけではなく、「コツコツと積み上げ成し遂げたこと」だと私は感じます。

佐川氏が経営改善に関わった阿部梨園の代表阿部氏が信条としている
「守りながら、変えていく。」
というのは、守るべきものの存在が大きいからこそ、変われるという想いが込められています。
「いつまでも変わらないね」というのが、ほめ言葉と認識されているくらい、私たち日本人は「変わらないこと」を美徳とし、「変わること」に抵抗したがります。
そう。「変わる」ためには「勇気」が必要なのです。
本書は、農業に関わらず、あらゆる業種の「小さな経営改善」において参考になる本だと思います。これから起業を考えている方の参考にもなるはずです。
経営改善に必要なのは「知識」ではありません。自らを変える「勇気」です。
佐川 友彦氏
コロナ禍で、私たちは今、「変わること」を余儀なくされています。
こんな時代だからこそ、阿部梨園の勇気に学んでみてはいかがでしょうか。